“Stop for a cup of coffee!忙しい毎日。コーヒー1杯のゆとりを大切に。” 癒しを提供するために、葉山 パッパニーニョほどコーヒーと向き合ってきたカフェは他にあるでしょうか。 パッパニーニョは日本のサッカーを育て、2015年に日本サッカー殿堂掲額者となった二宮寛(にのみや ひろし)さんが営むカフェです。場所は一色海水浴場・葉山御用邸のすぐ近く、バス停「葉山」から歩いて4分。 パッパニーニョにしかないメニューや空間とは。オーナー・二宮さんとお店のストーリーとは。 パッパニーニョの真髄に迫ります。
コーヒー1杯のゆとりのために、本物を提供したい。
レジ横に貼られたポスターには、パッパニーニョが大事にしている言葉があります。 “Stop for a cup of coffee!忙しい毎日。コーヒー1杯のゆとりを大切に。”
「くつろいでいただくには、モドキじゃ駄目。本物じゃないと」
お客さんにゆっくり過ごしてもらうためのコーヒー・空間・接客は、半世紀以上もの間、真正面からコーヒーと向き合ってきた二宮さんにしか生み出せません。パッパニーニョの特徴である、コーヒー・空間・接客を探訪します。
60年のコーヒー体験が蓄積した、ここにしかないコーヒー
今や “こだわりのコーヒー” は巷に溢れかえる時代です。しかし二宮さんが淹れるコーヒーは、単なる“こだわりのコーヒー”ではありません。
追い求めたのは 「ほかのどこにもない、パッパニーニョにしか存在しないコーヒー」お店を代表する「パッパニーニョ・ブレンド」です。
甘み・苦味・酸味が等しく釣り合うこのコーヒーは、思いのほかすっきりと軽やかな味わいです。深みは後からじんわりやってくる。
パッパニーニョ・ブレンドはお土産として800円で購入できます。隣に並ぶカイザーブレンドは、パッパニーニョの名づけ親であり、二宮さんと深い親交を結ぶサッカー界の皇帝・ベッケンバウアーの称号からとったものです。こちらのお値段は1,000円。
パッパニーニョのコーヒーは、約60年に及ぶ二宮さんのコーヒー体験の結晶です。19歳でローマのエスプレッソにめぐり逢って以来、ヨーロッパ諸国を駆けめぐり、コーヒーと関わり続けてきました。それだけに、二宮さんはヨーロッパ発のコーヒー文化を伝える伝道師です。
「コーヒーっていうのはね、のどを潤すというよりも、気持ちを鎮めるためのもの。深く静かに沈殿していく。その上、健康にも良い飲みもの。ヨーロッパでは歓談の場にコーヒーがあって、そこから深い議論に発展していくんです。1人で静かに気持ちを落ちつけたい時も、みんなで歓談する時にもコーヒーが効く」
ヨーロッパのコーヒー文化をそのまま体験してもらいたい。
コーヒー1杯から開ける世界を、今の日本人にも知ってもらいたい。
この気持ち一筋で、二宮さんはパッパニーニョで今日もコーヒーを淹れます。
友人の自宅を思わせる空間
コーヒー1杯から広がる世界を旅するには、やっぱりこの空間でないと。
二宮さんが淹れるコーヒーを一層引き立てるのは、家のリビングを想起させる店内です。このスペースにはテーブルが4卓。ドアを開けて一歩踏み入れたら、人懐こくて飾らない雰囲気に、たちまち心がほぐれる。親しい友人や、家族、夫婦2人で、時間を忘れて過ごしたい空間です。
20年以上をヨーロッパで過ごした二宮さんは、自然体のおもてなしを追求してきました。
「ヨーロッパのコーヒー文化は家庭の延長にあるんです。その家の奥さんが出てこられてね、おもてなしする。自宅の一室でお客様をおむかえする。そこで決まり文句を並べるんじゃなくて、お客様それぞれに合った心配りをする。うちもそんなお店です。だから、店内はわざわざコーヒー店のためにしつらえてはいないのです。」
店内には、目利きの二宮さんが集めてきたヨーロッパの調度品がたくさんあります。これらはコーヒー店を開く目的で集めたのではありません。いつの間にか集まってしまったものをパッパニーニョで活かしていると二宮さんは言います。
パッパニーニョが提供するゆとりの空間は、お店の外にも広がります。ガーデンテラスも「コーヒー1杯のためのゆとり」が生み出される場所。
スタッフによると、パッパニーニョには庭好きなお客さんも多く訪れるとのこと。春夏秋冬、草花の鑑賞に耽ることができるのは、専属のガーデナーが庭づくりを計算し尽くしているから。
ガーデンには自然に溶け込む素朴な草花が多く、スタッフの一押しは5月のバラです。
テーブル数は4卓で、すべてモミジの木陰にあります。小さなお子様にはデッキの席がおすすめです。
実はこの席、大人にも大評判。ちなみにガーデンテラスならペット連れて利用できるから、犬の散歩途中でも気軽に立ち寄れます。
外で過ごしやすい春・秋シーズンは、パッパニーニョのガーデンでくつろいでみてはいかがでしょうか。
気さくで心地の良い接客
パッパニーニョでお客さんをもてなすのは、4人のスタッフです。二宮さんは「彼女たちがいないと何もはじまらないから」とおっしゃります。
お店づくりについて尋ねると、スタッフからすぐさま返ってきたのは「お客様ひとりひとりに合った対応を」という言葉でした。
座席はどこがベストか。それぞれのお客様にマッチする器はどれか。パッパニーニョでどんな過ごし方を望んでいらっしゃるのか。それらを瞬時に読み取り対応されています。
たとえば数人の女性が訪れた時には、ひとりひとり違う柄の食器を出します。食器や小物を見て、お友達同士で盛り上がっていただけるように。そんな心づかいの表れです。子供連れのお客さんには調度品から離れた席を案内する。気を遣わせずに家族の時間を過ごせるよう、ささやかな気づかいをないがしろにしません。
「お客様に心から喜んでいただくには?」
スタッフそれぞれがそう問い続けながらも、気を遣いすぎず、ほどよい距離感で気さくに接してくれます。だから、肩肘張らず心地がいい。
まさに友人の自宅を訪ね、奥さんに出むかえてもらっている錯覚に陥ります。「コーヒー1杯のためのゆとり」をつくり出す接客も、パッパニーニョが愛される一要素です。
オーナー・スタッフがおすすめする人気メニュー
パッパニーニョのメニューは軽食とスイーツ、コーヒーが中心です。一押しは、「コーヒーゼリー」、「パッパニーニョ・ブレンド」、「ブランチ」の3つ。二宮さんがヨーロッパで蒐集した食器を鑑賞しつつ、味わってみては?
おすすめ①「コーヒーゼリー」
パッパニーニョで一番人気なメニューはこれ。ボリューム満点のコーヒーゼリー(700円)です。惜しみなく注いだ生クリームに、アイスクリームとコーヒーゼリーが浮かびます。コーヒーゼリーはなんと二宮さんの手作り。甘すぎず、コーヒーの苦みをそのまま閉じこめた冷たいデザートです。
アイスクリームの上にトッピングされたミントで、生クリームの甘みは軽やかに。ミントはパッパニーニョの自家製です。
昼下がり、お友達や家族とゆったり過ごすワンシーンにいかがでしょうか。
おすすめ②「パッパニーニョ・ブレンド」(ワゴンサービス)
パッパニーニョに来たら、名物のワゴンサービスは外せません。パッパニーニョ・ブレンドをオーダーすると、長年使いこんだワゴンを引いて二宮さんが奥から現れます。お客さんの目の前でコーヒーを淹れる二宮さんの姿は、パッパニーニョおなじみの風景です。
コーヒーを入れる時間は、お客さんと言葉を交わすひとときです。心をこめてじっくりと、丁寧にコーヒーを淹れます。二宮さんに会いにくるサッカーファンも、この時ばかりは緊張した心がゆるむはず。
「コーヒーには牛乳を入れるといいよ」
二宮さんのおすすめは、コーヒーにミルクを加えるスタイル。ミルクを入れると、やさしくて深みのある味に変化します。
おすすめ③「ブランチ」
「今日はいっそのこと、朝ごはんとお昼をひとまとめにしてしまおう」
そんな日には、栄養満点・地元食材たっぷりのブランチ(1,500円)をオーダーしてみては?ブランチは10:00からはじまり、ラストオーダーは12:45です。
ホットコーヒーとトースト、地元食材を使った目玉焼きプレートがセット。おまけのデザートにはココアフラッペとコーヒー(
まずはブランチのメインプレートから。
ソーセージは焼いた粗挽きソーセージとゆでたソーセージの2種類です。ナイフを差しこむと、肉のうまみが凝縮された汁が滴ります。横浜郊外の金沢文庫にある自家製ハム・ソーセージ店「ブルスト」のソーセージを使用しています。1959年の創業以来、手づくりソーセージを愚直につくり続けているお店です。
目玉焼きの白身はぷりっとした食感。これは葉山近郊にある養鶏場で産み落とされた、「アローカナ」という種類のたまごです。うす緑色の殻を見たら、目を丸くすること間違いなし。
プレートに添えられたトマトはみずみずしく、青々とした爽やかな甘みが特徴です。太陽の光のような色合いが目にやさしい。これで口の中はさっぱりします。
トーストにつける自家製ブルーベリージャムは、さらりとしたシロップ状で、甘さは控えめ。バターは塩味の効いたカルピスバターです。これをつけるとトーストの香ばしさが際立ちます。
食事が終わったら、おまけにココアフラッペとコーヒーが付きます。コーヒーの香りの高い氷の粒と柔らかいホイップクリームが、口の中でさっと溶けます。アイスコーヒーはグラスに氷を入れ、その場で注いでもらいます。温かいコーヒーとはまた違い、酸味よりもすっきりした甘さが引き立ちます。
ブランチは「お食事もしたい」というお客さんの要望に応えて生まれたメニューです。「コーヒー1杯のゆとり」といったパッパニーニョのイメージを守りつつ、お客さんのニーズに合わせたメニューを提供します。栄養満点のブランチは、しっかりお腹を空かせてからいただきましょう。
すべての経験が、パッパニーニョのコーヒーに。
「サッカーも仕事も、コーヒーも、関係大あり」。こう語る二宮さんがコーヒーの世界に足を踏み入れたのは19歳の時。慶應義塾大学在学中に日本代表選手としてヨーロッパに遠征したタイミングでした。
「ローマで飲んだコーヒーは忘れられない。とても濃いエスプレッソだったね」
大学卒業後1959年には三菱重工に入社し、営業関係の仕事の傍ら日本代表選手を続けました。1976年から78年までは日本代表監督を務め、サッカー界を引退してからは三菱自動車・欧州三菱社長に就任。1995年に帰国するまでの20年近くをヨーロッパで過ごしました。
2002年、日韓ワールドカップに合わせて葉山にパッパニーニョが誕生。「お父さんと少年」という意味の店名を名づけ親は、二宮さんと深い親交を結ぶサッカー界の皇帝・ベッケンバウアー氏でした。
葉山にお店を開いたのは、二宮さんのご先祖の土地があったから。
「ここには昔、最上邸という別荘があって、7人姉妹が今でいうシェアハウス暮らしをしていたんだよね。当時は今みたいに家が建っていなくて、お隣さんといったら葉山の御用邸だった。1930年代のことだね。その頃はこの近くに医者がいなかった。だから、7人姉妹は専属の医者を養子にして、敷地内に住まわせた。その医者の住まいが今のパッパニーニョの建物。2000年の帰国後、ずっと使っていなかったその建物を改築して今のお店ができましたね」
天井の木の板は、専属の医者が住んでいた頃のままです。
パッパニーニョはまさに、二宮さんがご先祖から受け継いだ自宅そのものなのです。
「今年で81歳になるけれど、すべての基本はサッカーで培われましたね。サッカーをして、仕事をして、コーヒーのお店をやってきたけれども、人生は蓄積で、どんな経験も役立っている」
そう言いながら、二宮さんが持ってきてくれたものがありました。
“Bloom where you are planted!(植えられた場所で花を咲かせよ!)”
これは二宮さんがヨーロッパでめぐり逢った人々や師匠の人生観を表す言葉です。
「花っていうのは、どんな場所に植えられていても、がれきの下でも咲くでしょう?一瞬一瞬、与えられた環境をいかに大切にできるか。自分の頭で考えて行動すれば、花は咲く」
今まで過ごしてきた中で、無駄な時間を過ごしてきたなと思ったことは、一度もない。そう語る二宮さんが淹れるのは、およそ80年の人生がこめられた深みのあるコーヒーなのです。(TEXT:瀬尾愛里紗)
名称 | 葉山 パッパニーニョ |
住所 | [su_gmap address=” 神奈川県三浦郡葉山町一色1940″]〒240-0111 神奈川県三浦郡葉山町一色1940[/su_gmap] 【車】横浜横須賀道路逗子インターより逗葉新道へ入り、出口付近の信号「南郷トンネル」を左折。 トンネルを出て、信号「湘南国際村入口」を右折して数分、信号「葉山郵便局」を左折して1分ほど進む。雑貨店PINO(ピーノ)が右手に見え、五差路に突き当たったらUターンするように右折。 左手3軒目がパッパニーニョ。 【電車】JR横須賀線「逗子駅」からバス停「葉山」まで20分。 「葉山」で下車し、信号「下山橋」を左折してまっすぐに進む。五差路に突き当たったら左の道に入り、3軒目。(バス停より徒歩4分) |
電話番号 | 046-875-9924 |
営業時間 | 10:00~18:00 |
駐車場 | 有(8台) |
ペット可/否 | 可(テラス) |